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Profile─
2004 年,名古屋大学大学院文学研
究科単位取得退学。博士(心理学)。
ケースウェスタンリザーブ大学医学
部研究主任,メリーランド大学医学
部助教授などを経て,2020 年より
現職。専門は行動神経科学。著書に
Handbook of Behavioral Genetics
of the Mouse(分担執筆,Cambridge
University Press)がある。
アメリカ心理学部の進路事情
常磐大学人間科学部心理学科 准教授
荒川礼行
(あらかわ ひろゆき)
私は名古屋大学にて博士取得
後,日本学術振興会特別研究員PD
の後半からアメリカに渡りました。
以来15年の間6カ所の大学を渡り
歩き,博士研究員・教員・研究主
任とさまざまなポストを経験しな
がら延々と引っ越しを繰り返し,
すっかり日本を忘れた頃になぜか
戻ってきました。家族共々語るに
尽くせぬ経験もありましたが,長
期間に及ぶ海外生活が日常となっ
ていましたので,むしろ現在日本
での生活に戸惑いを感じていま
す。このように日本の事情に疎い
ため,今回話題をどうするか悩み
ましたが,アメリカで心理学部と
医学部の両方の教員経験があるこ
とから,これら二つの学部を繋い
でいる進路設計(の裏事情?)に
ついてご紹介しようと思います。
アメリカの心理学部の方向性
アメリカの大学の心理学部とは
いえ,各々無方向に研究をしてい
ればよいというわけではなく,き
ちんと学生に付加価値をもたせて
送り出す使命があります。ところ
が今や,職業に直結するような付
加価値は大学院から付与される社
会となっており,特に人気の医療
系とビジネス系も大学院から専門
教育に入ります。つまり学部の専
攻は原則何でもよいことになりま
すが,それでも進学しやすさや進
学後の学習しやすさの違いはあり
ます。この点,心理学部は医療系
(医学・薬学・看護を含む)への
進路希望が5~7割となっており,
専門大学院への進学しやすさに付
加価値を見出せるわけです。つま
り「高校生が医師(あるいは医療
系職種)に就きたいと思ったら,
まず心理学部(あるいは生物学
部)を卒業する」という標準進路
が形成されて久しい,というのが
心理学部の現状です。日本では高
校卒業直後から学部ごとに分けら
れますから,それとは学生の進路
設計が全く異なるわけです。
医学基礎課程としての心理学部
そのため,心理学部として優先
すべき付加価値が医療系への進学
しやすさとなります。大学あるい
は学部組織の中では,心理学・生
物学・化学の関連カリキュラムを
組み合わせてPre-Med(医療系進
学)コースを設定するところや,
神経科学の学位コースを医学の学
部課程として設定する場合もあり
ます。これには医学系基礎科目履
修の他,基礎医学教室への配属に
備えるための実験室実習なども含
みます。
このような理由から,アメリカ
の心理学部,特に基礎系心理学の
カリキュラムは医学系準拠,ある
いは医療系に親和性の高いものに
改編されています。例えば,「知
覚・認知心理学」や「学習心理
学」はヒト中心の「認知神経科
学」,動物モデル中心の「行動神
経科学」に名称が変えられ,もち
ろん内容も医学と親和性の高い神
経科学を前面に出したトピックで
構成されています。学部で看板と
なるカリキュラムが基礎医療系
に準拠することで,当然医療系の
公募研究費,つまり昔は主流だっ
た国立科学財団(NSF)系ではな
く,国立衛生研究所(NIH)系を
狙えるようになりました。採れる
かどうかは別として,大学側でも
多額の外部資金による運営を歓迎
しています。それによって,強い
プログラムを持つ学部では多額の
資金を得て学生が集まり,その学
生たちが医療系に親和性の高い経
験を積んで,実際医療系に強みを
持って進学していくという流れが
できています。
これらの流れが加速したのは比
較的最近のことであり(知人教授
調べ),伝統的な心理学の在り方
を守ろうとする流れも残ってはい
ます。しかし残念ながら,これら
伝統的な心理学は医療系との親和
性が低いことから学生人気が得ら
れず,大学経営の観点からも縮小
するか,あるいは資金を積み上げ
医療系に近似するよう改編するこ
とが求められています(とある大
学では資金が集められず頓挫し
たことも)。このような事情が裏
(土台)に存在すると知ることで,
アメリカの心理学の研究,教育の
方向性が見えやすくなる面もある
かと思います。若手の方の海外状
況把握の一助となれば幸いです。